《要旨》

 有害物質が環境基準に抵触しない有害物質の量であっても、売主の瑕疵担保責任が認められた事例

 

本事例は、発見された汚染物質が環境基本法16条1項に基づく「土壌汚染に係る環境基準について」に定められた環境基準を全項目にわたり下回っている場合に、当該土壌汚染が瑕疵に当たるかについての判断が示されたものである

 

(1) 事案の概要

 業者Xは、分譲マンションを建築する目的で、平成12年9月、業者Aの媒介により、Y(鉄鋼業等を営む株式会社)から土地及び建物(非鉄金属の保管用倉庫及び事務所兼社員寮)を買い受け、同年10月引渡しを受けた。なお、売買契約書には、「土地に廃棄物、地中埋設物又は土壌汚染等の隠れた瑕疵がある場合に、土地の引渡日以後6か月を経過したときは、XはYに対して担保責任を追及できない」旨の特約が付されていた。

 

 その後、Xが工事を開始したところ、地中に建物のコンクリート基礎が埋没していため、Aの指示により、同年4月、「(ア)本件土地から地中障害物が発見されたこと、(イ)障害物の全容解明は、同年5月上旬までかかること、(ウ)瑕疵担保責任が満了するまで時間がないこと、障害物の全容が確認でき次第、改めて資料及び見積書に写真を添付して説明する」旨の報告書を作成し、Aに提出した。Aは、同日、即座にYに電話で報告書の内容を連絡するなどして、今後瑕疵担保責任の問題が発生する可能性について説明した。本件土地からは、その後、コンクリート塊、コンクリート製オイルタンクの残骸、オイル類により泥状になった土壌が発見された。汚染された土壌は、環境基準に抵触するような量の有害物資を含有していなかったが、水を含むと強い悪臭を発した。

 

 Yは、地中埋設物の瑕疵については認めたものの、(ア)所定の環境基準を全項目において下回っており、土壌汚染に該当しない、(イ)Xの通知には土壌汚染の存在について一切触れていないから、制限期間内の通知はなかったと主張したため、XはYに対し、瑕疵担保責任特約に基づく損害賠償を求めて提訴した。

 

(2) 判決の要旨

 (ア)その土地の外見から通常予測され得る地盤の整備、改良の程度を超える特別の異物除去工事等を必要とする場合は、土地の瑕疵に当たるというべきである。本件土地の土壌汚染は、多数の住民を受け入れることになるマンションを建設することを妨げる程度に至っており、特別に費用をかけてでも処理する必要があるといわざるを得ず、本件土地は、取引通念上有すべき品質、性能を欠くというべきであり、土地の瑕疵に当たる。

 

 (イ)制限期間前の通知の有無の解釈適用は、形式的解釈ではなく、商法526条1項の解釈に従い合理的・合目的的になされるべきであり、XがYに対して、地中埋設物の存在とその全容解明にはなお時間がかかる旨を伝達した時点で、マンション建設にとっての地中障害物全体の存在について通知がなされたと認めるのが相当である。

 

 (ウ)よって、Xの主張は、損害を障害物の撤去及び土壌廃棄費用とする限度で理由がある。